ワインと同じようにワイングラスに魅了される時ってありますよね。 ワインの特性をより生かすのはグラスの形状とも言われます。実際に同じワインを形の異なるグラスで飲んだ時、その風味の違いに驚きます。口に運んだ時、空気の混ざる量によって鼻から感じとれる味わいの違いはとても不思議なほどです。いつもはワインに注目してしまうのですが今日はそんなワイングラスを思ってみましょう。 丸いフォルムの空間の中に揺れるワインはいつも私を幸せな気持ちにしてくれます。グラスの中に注がれたワインと、ワインが注がれるワイングラスは以心伝心のように微笑ましい関係だなぁと思うのです。 ワイングラスといってすぐに思い浮かべるのはチューリップ型のスタイルです。ボディ=ボウルが丸く、飲み口が狭まっているのは、ワインをグラスの中でクルクルと揺らしやすくし、それによって立ち上がる香りをとどめるための工夫なのですね。
でも、こうした形が生まれたのはいつからなのでしょう。 そこで歴史を遡ってみました。ワイングラスとして最も有名なのがイエスのグラス。いまも世界中で探されているいわゆる聖杯ですね。それはどんな形をしているのかなと思いついたのが15世紀末の1498年に完成したダ・ヴィンチの最後の晩餐でした。でも、そこに描かれているのはよくあるコップのようです。イエスの時代は真鍮製や木製だったはず。15世紀にはガラス製品が広まってきたようですから、ダ・ヴィンチが描いたコップもガラスなのでしょう。 そのころのグラスは殆どがラッパ型で、イタリアヴェニスの教会で使用された金属の聖杯に由来していると考えられているそうです。今から約600年以上よりも前にガラスのワイングラスが少しづつ定着していったのですね。 透明でチューリップ型のグラスが出来たのは1958年。第二次大戦の傷が癒え、新たな時代に進む頃でした。あの有名なクラウス・リーデル氏によって生み出されたのですが、その歴史が浅いことにとても驚きます。 ステムの部分が長く作られているのはワインの温度を持ち手の体温で変化させないためだったり、ワインを空気により多く触れさせるためボウルの部分が大きなもの、アルコールが高いワインのためにできるだけ揮発を防ぐように小さな形のものやシャンパーニュの泡が綺麗に上るのが見えるように長めのフルート型のものだったりと本当に多様です。 そして品種別のワインを楽しむためのグラスをリーデル家の当主が生み出したのは1973年。そのころからワインの香りや味わいがより注目されるようになったのですね。
ワイングラスにそっと花を添えるチャームはグラスマーカーとも言われますが、パーティなどでたくさんのグラスが並ぶとき、自分のものが分かるように耳に着けていたイアリングを外してワイングラスの脚の部分に付けたのがワインチャームの始まりという女性らしいエピソードもあります。 よく絵で見るような饗宴の光景が浮かんできませんか?ワインとグラス、グラスに素敵なワインチャーム、どれを切り取ってみても必然に生まれたその関係性は日常にもありふれているなあとワインとグラスの結び付きに重ねて思わず頷きました。
そんな繋がりが創り出すものにはとても相乗効果があってお互いを高めあっていると思うのです。ワインやモノだけではなく人と人との関係もかけがえのない存在だと思えることだけで私の心は温かくなります。 ワインとワイングラスという関係性のようなシナジーは日常にありふれていて、私たちを豊かにしてくれていますね。 あなたならではのチャームを飾ったお気に入りのグラスにワインを注ぐとき、あなたにとってかけがえのないことを思い浮かべてみるのはいかがでしょう。
紹介著書 (においと味わいの不思議*知ればもっとワインがおいしくなる*虹有社出版)